ふっくら草子(そうし)~和の贈り物と文字で綴る、癒しのものがたり~

やさしさいっぱい、ふっくら堂の小さな言の葉帖

ふっくら草子④『ふくりんと藍の滝 〜龍神と木のお地蔵さま〜』

それは、近いようで遠く、
遠いようで、ふと足をふみ入れてしまいそうな場所。

藍の里(あいのさと)と呼ばれるその地には、

風と水と祈りが、そっと寄りそいながら流れています。

 

その奥にある「藍の滝」。

しずかに、しずかに流れ落ちるその滝のそばに、
小さな木の祠(ほこら)がひとつ、木々に守られるように建っています。

 

藍の滝とふくりんの祠

中にいるのは、小さなお地蔵さま──ふくりん

 

ふくりんは、ある人の手によって彫られました。
「どうか、見えない誰かの心が、やわらぎますように」
そんなやさしい願いが、木のぬくもりと一緒に刻まれています。

 

その願いは、水の流れに乗って、
滝の奥に眠っていた存在のもとへと届きました。

 

──龍神・大和(やまと)

水の中で静かに息をするように、
世界のいのちを見守る龍。

 

ふくりんの想いに気づいた大和は、
風のかたちになって祠の前へ現れました。

 

そよそよと吹く風のなかで、
ふくりんは、やさしい気配に気づいて顔を上げます。

 

「ふくりん……」

 

大和の声は、
水の音にまじって聞こえるような、
やさしくて、あたたかな響きでした。

 

「ずっとここにいてくれて、ありがとう。
 あなたの祈りは、たしかに届いているよ。」

 

ふくりんは、まんまるな顔をほころばせて、うれしそうにうなずきました。

 

「……まあ。これは、なんとおやさしきお声……

わたくしの想い、ちゃんと届いていたのでございますね……?」

 

すると、大和の風がふくりんのまわりをふわりと包みます。

 

「これからは、祠の中だけじゃなくて、
風の道を歩いてごらん。
ふくりんのぬくもりを、もっと広く伝えてほしい。」

 

やさしくそっと、そう語りかけたとき──

ふくりんの小さな体が、ぽふぽふ…と動きはじめたのです。

 

「……あっ。お、おみ足が……ほわほわと、うごいておりまする……!」

「これは……まことに……! そとは、かくもあたたかきものでしたか……!」

 

はじめて手足がふわっと動いたふくりんは、
うれしそうにくるりとまわり、
ぽふぽふと、小さく跳ねるようにして祠を出ました。

 

空の光が、枝のすきまから降りそそぎます。
草の声、花の匂い、土のやさしさ。

 

「そよ風が、こんなにもくすぐったいとは……ふふっ、たのしゅうございまする……」

ふくりんは、胸いっぱいに世界を感じて、
にこにこと笑って立ちつくします。

 

その様子を、大和は遠くからそっと見守っていました。
声をかけずに、ただ、やさしい風となって──

 

 

ふくりんは今も、ぽふぽふと歩いています。
風と草と、やわらかな心にそっと寄り添いながら、
“想いのかたち”を伝えていくために。

 

 

ぽふぽふ……ふわ〜ん。

 

ゆっぽっぽ

 

 

藍の里ワークスー想いをかたちに、やさしさを届ける創作としごとの場所 | 藍の里ワークスは、足踏み・手しごと・まなびを通して、「想いをかたちに」するやさしい活動を続けています。癒しと温もりを、あなたの日々へ。