藍の里の、しろつめくさが咲く野原。
ふくのんは、朝からそわそわしていました。
「ふくりんさま、今日は…とくべつな日なんです」
「ほほう、とくべつとな。さてさて、何が起こる日じゃろうの」
ふくりんがゆるりと首をかしげたとき、
ぱたぱたっと、小さな足音が草をふみしめてやってきました。
「ふくの~ん、あ~そぼっ!」
やってきたのは、いつも野原をかけまわっている、ちいさな野うさぎ。
ふくのんはにこにこ顔で立ち上がると、うさぎの前に、まあるい花冠をそっと差し出しました。
「おたんじょうび、おめでとう!」
うさぎはびっくりして、目をぱちくり。
「えっ、どうして知ってるの…?」
ふくのんはふわりと笑って、
ふくりんのほうを見つめました。
ふくりんは、ちりりん…と鈴を鳴らし、やわらかく語りかけます。
「祝いとはの、何も大きなものではいらぬ。
想う心がまっすぐであれば、それだけでじゅうぶんじゃ」
そのとき、空の方から一筋の光が降りてきて、
福蔵鶴が、静かに羽ばたきながら野原に舞い降りました。
「わあ…すごい…」
うさぎは、ふくのんの花冠をぎゅっと抱きしめて、目をうるうる。
福蔵鶴は、くるりと野原をひとまわりして、空へ舞い上がりながら、
ひとこと風のようにささやきました。
「おたんじょうび、おめでとう。
あなたがいてくれて、うれしいよ。」
ふくりんは、うさぎの頭にそっと手をのせました。
「…これからも、この野原に、やさしい日々が降りますようにな」
春の風が、しろつめくさのあいだから吹き抜けていきました。
その音は、まるで“お祝いのうた”のように、やさしくやさしく響いておりました。
ぽふぽふ……ふわ〜ん。
ゆっぽっぽ