ふっくら草子(そうし)~和の贈り物と文字で綴る、癒しのものがたり~

やさしさいっぱい、ふっくら堂の小さな言の葉帖

ふっくら草子⑥しろつめくさの冠と、野うさぎのたんじょうび

藍の里の、しろつめくさが咲く野原。

ふくのんは、朝からそわそわしていました。

 


「ふくりんさま、今日は…とくべつな日なんです」

「ほほう、とくべつとな。さてさて、何が起こる日じゃろうの」

 


ふくりんがゆるりと首をかしげたとき、

ぱたぱたっと、小さな足音が草をふみしめてやってきました。

 


「ふくの~ん、あ~そぼっ!」

やってきたのは、いつも野原をかけまわっている、ちいさな野うさぎ。

 


ふくのんはにこにこ顔で立ち上がると、うさぎの前に、まあるい花冠をそっと差し出しました。

 

ふくのんと野うさぎ





「おたんじょうび、おめでとう!」

 


うさぎはびっくりして、目をぱちくり。

「えっ、どうして知ってるの…?」

 


ふくのんはふわりと笑って、

ふくりんのほうを見つめました。

 


ふくりんは、ちりりん…と鈴を鳴らし、やわらかく語りかけます。

 


「祝いとはの、何も大きなものではいらぬ。

 想う心がまっすぐであれば、それだけでじゅうぶんじゃ」

 


そのとき、空の方から一筋の光が降りてきて、

福蔵鶴が、静かに羽ばたきながら野原に舞い降りました。

 


「わあ…すごい…」

 

うさぎは、ふくのんの花冠をぎゅっと抱きしめて、目をうるうる。

 


福蔵鶴は、くるりと野原をひとまわりして、空へ舞い上がりながら、

ひとこと風のようにささやきました。

 


「おたんじょうび、おめでとう。

 あなたがいてくれて、うれしいよ。」

 


ふくりんは、うさぎの頭にそっと手をのせました。

「…これからも、この野原に、やさしい日々が降りますようにな」

 


春の風が、しろつめくさのあいだから吹き抜けていきました。

その音は、まるで“お祝いのうた”のように、やさしくやさしく響いておりました。

 

 

ぽふぽふ……ふわ〜ん。

 

 

ゆっぽっぽ

 

藍の里ワークスー想いをかたちに、やさしさを届ける創作としごとの場所 | 藍の里ワークスは、足踏み・手しごと・まなびを通して、「想いをかたちに」するやさしい活動を続けています。癒しと温もりを、あなたの日々へ。