ふわり、元気の風をとどけに。
〜たんぽぽの庭から広がる、やさしさのまじない〜
藍の里に、少し元気のない風が吹いていました。
山のこずえも、里の花たちも、
なんだかうつむきがちで、
人々の声も、少しだけ小さくなったような気がします。
ぽつん、ぽつん……
たんぽぽだけが、風を探すように揺れていました。
そんなある日。
「癒し処 足踏みゆっぽ」の“たんぽぽの庭”に、ふくのんは座っていました。
足元には、ぽふっと咲いたたんぽぽの花。
手のひらには、ふわふわの綿毛。
「……みんな、げんきないなあ」
ふくのんは、ぽつりとつぶやいて、
綿毛をそっと見つめました。
そのとき――
「ちりりん……」
やさしい鈴の音とともに、
どこからともなく、ふくりんがふんわり現れました。
「ふくのんや、たんぽぽの子らが、なにやらさみしそうじゃのう」
「ふくりんさま…うん……藍の里の風が、いつもとちがう気がするの」
ふくりんはにこりと微笑み、
ふくのんの手にある綿毛を、やさしく見つめました。
「この綿毛に、わしの鈴の音をのせてみようかの」
そう言って、ふくりんは腕の宝来鈴を、そっと揺らします。
「ちりりん……」
「ちりりん……」
「ちりりん……」
音が重なるたびに、ふくのんの手の中の綿毛が、
まるで光をまとったように、ほのかに輝き始めました。
ふくのんは、目を丸くして――
そして、ふっと小さく息を吹きかけました。
綿毛はふわりと空へ舞い、
風にのって、空へ、里へ、森へ、ひとつ、またひとつ……。
そのときです。
たんぽぽの庭の奥、陽ざしの中から、
ふわりと一羽の黄色い折り鶴が舞いあがりました。
やわらかな光をまとったその鶴は、
まるで綿毛たちを導くように、静かに空へと羽ばたいてゆきます。
「……あれは、福蔵鶴」
ふくりんが、そっとつぶやきました。
「きっと、あの鶴が道しるべになってくれるのじゃよ」
届いた先では、不思議なことが起こり始めます。
しぼんでいた花が、ふんわり咲きなおし、
元気のなかった子どもが、ふと笑い声をあげ、
こごえていた心に、あたたかい風がそっと吹いたのです。
ふくりんは目を細めて、言いました。
「のう、ふくのんや……
そなたのやさしさが、里じゅうに届いたようじゃ」
ふくのんはうれしそうに、また綿毛を手にとって、にっこり。
「ふくりんさまっ、もういっかい、お願い」
「ちりりん……」
「ちりりん……」
今日もまた、
たんぽぽの庭から、“元気の風”が旅立っていきました。
ぽふぽふ……ふわ〜ん。
ゆっぽっぽ