ふっくら草子(そうし)~和の贈り物と文字で綴る、癒しのものがたり~

やさしさいっぱい、ふっくら堂の小さな言の葉帖

ふっくら草子③:願いの道と福蔵鶴のうまれた日

〜ある手しごと人と、やさしい折り鶴のものがたり〜

 

近くて遠い、遠くて近い…藍の里という、山と風のあいだに抱かれた小さな里があります。

 

その里には、木の葉に隠れるようにして、
「願いの道(ねがいのみち)」とよばれる細い小道がのびています。

 

その道の先には――
しずかに湧きつづける泉がひとつ、ぽつんとたたずんでいるのです。

 

だれが呼んだか、その泉は「藍の泉(あいのいずみ)」。

 

ふしぎなことに、その泉のことは、
この里でも、ほんの一握りの者しか知りません。

 


ある手しごと人と、折り鶴たち

 

この里のすみっこに、ある手しごと人が暮らしていました。

 

その人は、誰かの「ありがとう」や「そばにいるよ」といった
やさしい想いをすくいとっては、折り紙に託して、
一羽、また一羽と、折り鶴を折っておりました。

 

折り鶴たちは、いつしか風に導かれるようにして、
どこか遠くへと旅立ってゆくのが常でした。

 


追い風と折り鶴

 

ある夕暮れ。

 

手しごと人は、窓辺に並べていた折り鶴のうちの一羽が、
そっと宙に舞いあがるのを目にしました。

 

くるくると、風にのって……
まるで何かに呼ばれたかのように、小道の奥へと飛んでゆきます。

不思議に思った手しごと人は、思わず立ち上がりました。

 

「……まって」

 

そして、小道へと、
折り鶴を追いかけて歩き出したのです。

 


泉のほとりで

 

草をわけ、風に導かれ、
どれほど歩いたでしょうか。

 

気づけば、目の前にはしずかな泉が広がっていました。

 

折り鶴は、泉のほとりにそっと降り立っていました。

 

そのとき――

 

泉の底から、ひとしずくの光が、ぽうっと浮かびあがったのです。

 

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その光が折り鶴にふれると、
羽がふるふるとふるえ、やわらかなぬくもりが灯りました。

 

足もとには、まあるく澄んだひと粒の珠。
それは、この泉から生まれた「藍の泉の雫」でした。

 

光と紙がひとつになって、
やがて鶴は――

 

福蔵鶴(ふっくらづる)へと姿を変えたのです。

 


羽ばたく鶴と、見つめる人

 

手しごと人は、
ただ、その様子を静かに見つめていました。

 

自らの手で折った折り紙が、
泉の力と出会って、
まるで祈りそのもののように生まれかわったのです。

 

声はないけれど、
たしかに伝わる“想い”。

 

福蔵鶴は、やがて羽ばたいて、風のなかへと溶けてゆきました。

 

そして今日もまた――
風に乗って、
誰かのこころのそばへと、やさしさを届けに向かっていることでしょう。

 

 

 

ぽふぽふ……ふわ〜ん。

 

 

ゆっぽっぽ

 

藍の里ワークスー想いをかたちに、やさしさを届ける創作としごとの場所 | 藍の里ワークスは、足踏み・手しごと・まなびを通して、「想いをかたちに」するやさしい活動を続けています。癒しと温もりを、あなたの日々へ。