藍の里の東のはずれには、
「藍の滝(あいのたき)」とよばれる美しい滝がありました。
その滝は、朝になると、空からこぼれた光の糸のようにきらきらと流れ、
風が吹くたび、小さな虹がふわりと葉っぱのうえではねていました。
「ちりりん……ちりりん……」
ときどき聞こえるのは、どこからともなく流れてくる鈴の音。
けれど、その音のもとは、だれも知りません。
でもね――
この滝には、ずっとずっと昔から伝わる、不思議なおはなしがあるのです。
空からやってきた、ちいさな龍
ある日、空と水と風が出会うところから、
ひとすじの光といっしょに、ちいさな龍が舞いおりてきました。
その名は、やまと。
やまとは、碧(あお)いひかりを宿した、やさしい心の龍。
ちいさな体に、ふんわり風をまとう姿は、
まるで空のしずくのようでした。
滝のそばによりそいながら、
やまとは里のようすを、そっと見守っていたのです。
おおきくなった、やまと
時が流れて、やまとは少しずつ、大きくなりました。
滝の岩肌に背をあずけると、
その姿は、空の雲よりも大きく見えるほど。
羽ばたけば風がざわめき、
流れる水は、やさしく人の心を映す鏡になりました。
けれども、やまとのこころは、
ちいさなころと変わらず――
とてもやさしくて、静かで、あたたかかったのです。
ひみつのすがた
やまとには、ひとつだけ、だれにも言わないひみつがありました。
それはね……
ときどき、ちいさな龍にもどって、
人の世界にこっそり降りてくることができること。
風にのって、ふわりとやってくるちいさなやまと。
おばあさんがひと休みしているとき。
子どもが泣いているとき。
だれかがうつむいているとき。
そんなとき――
「ぽふっ」とそばに降りてきて、
ふわふわのしっぽで、そっとなでてくれたりするのです。
気づかなくてもだいじょうぶ。
やまとのやさしさは、風みたいに、心にすぅっとしみこんでいくから。
「ありがとう」
「よくがんばってるね」
「もうだいじょうぶ」
声にしなくても、やまとはちゃんと、わかってくれます。
そしてまた、ふわりと風にまかせて、
藍の滝の水面に帰っていくのです。
今も、滝の音のなかに――
今でも、藍の滝では、
しずかに流れる水音のなかに、
やまとのやさしい気配が息づいています。
もしかしたら、今日もどこかで――
あなたのすぐそばに、ちいさな龍が舞いおりているかもしれませんよ。
ぽふぽふ……ふわ〜ん。
ゆっぽっぽ