ぽとん。
夕暮れ色に染まる空から、
赤い雫がひとしずく、“しずくの丘”へと舞い降りました。
それは、ほんとうに小さな、小さなしずくでした。
その瞬間、ふくのんの耳に、「ちりりん……」と、
どこか懐かしい鈴の音が届きます。
ふくのんが顔を上げると、
そこには、やわらかな光に包まれたお地蔵さまのふくりんの姿がありました。
赤い前掛けをふわりと揺らしながら、
泉のほとりにそっと立っています。
「ふくのんよ……ほら、見てごらんなさい」
ふくりんの声は、風に溶けるように、やさしく響きました。
ふくのんが、そっと手のひらを差し出すと――
赤い雫はふわりと宙に浮かび、
光の羽をまとった折り鶴へと、しずかに姿を変えました。
「……わぁ……」
ふくのんが思わず息をのむと、
さらに次の雫たちが光をまとい、
四羽の赤い鶴たちが、ふくのんの手のひらに集いました。
一羽は、金の輪をまとい、ぴかりと輝きながら。
一羽は、その輪をそっとやさしく包むように羽ばたき。
一羽は、風にゆれる綿毛のように、ふわりと浮かび。
もう一羽は、くるりと宙を舞いながら、軽やかに現れました。
ふくりんは、そっとふくのんのそばに歩み寄り、
ふっくらとした手を胸にあてて、静かに語りはじめます。
「……この赤き雫には、“挑戦”の願いが込められておるように思いまする」
ふくりんの言葉とともに、
ちりりん……と、やさしい鈴の音が空へと溶けました。
「風が、そっと囁いたのです。
まっすぐに空をめざす、けなげな想いがここにあると……」
ふくりんは、ふわりと舞う鶴たちを見上げ、
続けます。
「されど、挑戦とは、ただ強く歩むことばかりではございませぬ」
ふくりんの声は、たんぽぽの綿毛よりもやさしく、
ふくのんの心に降りそそぎました。
「たとえば、まっすぐに歩もうとする勇気。
そっと誰かによりそい、手を取り合うやさしさ。
迷い、ためらいながらも、あきらめず羽ばたこうとする、あたたかな強さ……」
ふくのんは、手のひらにそっと鶴たちを包み、
目を閉じて、胸の奥で小さな祈りを結びます。
「みんな、それぞれの“がんばる誰か”のもとへ……」
ふくりんが静かに鈴を鳴らしました。
「ちりりん……」
その音とともに、
赤い福蔵鶴たちは光の風に乗り、ふわり、ふわりと旅立っていきました。
空へ。
誰かの、まだ見ぬ空へと。
───続く
やさしい風にのって、旅立っていった小さな祈り。
ここ、「藍の里」には、ほかにもたくさんの願いや想いが、そっと息づいています。
ふくのんやふくりんたちが暮らす、癒しと手しごと、学びの里へ──
よろしければ、ふらりとお立ち寄りくださいね。