ふっくら草子(そうし)~和の贈り物と文字で綴る、癒しのものがたり~

やさしさいっぱい、ふっくら堂の小さな言の葉帖

赤い福蔵鶴ものがたり①|藍の里に降りた赤い雫と、風にたくす小さな祈り

ぽとん。

 

夕暮れ色に染まる空から、
赤い雫がひとしずく、“しずくの丘”へと舞い降りました。

 

それは、ほんとうに小さな、小さなしずくでした。

 

その瞬間、ふくのんの耳に、「ちりりん……」と、

どこか懐かしい鈴の音が届きます。

 

ふくのんが顔を上げると、
そこには、やわらかな光に包まれたお地蔵さまのふくりんの姿がありました。

赤い前掛けをふわりと揺らしながら、
泉のほとりにそっと立っています。

 

「ふくのんよ……ほら、見てごらんなさい」

 

ふくりんの声は、風に溶けるように、やさしく響きました。

 

ふくのんが、そっと手のひらを差し出すと――

 

赤い雫はふわりと宙に浮かび、
光の羽をまとった折り鶴へと、しずかに姿を変えました。

 

「……わぁ……」

 

ふくのんが思わず息をのむと、
さらに次の雫たちが光をまとい、
四羽の赤い鶴たちが、ふくのんの手のひらに集いました。

 

赤い雫から誕生した福蔵鶴(ふっくらづる)

 

一羽は、金の輪をまとい、ぴかりと輝きながら。


一羽は、その輪をそっとやさしく包むように羽ばたき。


一羽は、風にゆれる綿毛のように、ふわりと浮かび。


もう一羽は、くるりと宙を舞いながら、軽やかに現れました。

 

ふくりんは、そっとふくのんのそばに歩み寄り、
ふっくらとした手を胸にあてて、静かに語りはじめます。

 

「……この赤き雫には、“挑戦”の願いが込められておるように思いまする」

 

ふくりんの言葉とともに、
ちりりん……と、やさしい鈴の音が空へと溶けました。

 

「風が、そっと囁いたのです。
 まっすぐに空をめざす、けなげな想いがここにあると……」

 

ふくりんは、ふわりと舞う鶴たちを見上げ、
続けます。

「されど、挑戦とは、ただ強く歩むことばかりではございませぬ」

 

ふくりんの声は、たんぽぽの綿毛よりもやさしく、
ふくのんの心に降りそそぎました。

 

「たとえば、まっすぐに歩もうとする勇気。
 そっと誰かによりそい、手を取り合うやさしさ。
 迷い、ためらいながらも、あきらめず羽ばたこうとする、あたたかな強さ……」

 

ふくのんは、手のひらにそっと鶴たちを包み、
目を閉じて、胸の奥で小さな祈りを結びます。

 

「みんな、それぞれの“がんばる誰か”のもとへ……」

 

ふくりんが静かに鈴を鳴らしました。

 

「ちりりん……」

 

その音とともに、
赤い福蔵鶴たちは光の風に乗り、ふわり、ふわりと旅立っていきました。

 

 

空へ。

 

 

誰かの、まだ見ぬ空へと。

 

 

 

───続く

 

 

やさしい風にのって、旅立っていった小さな祈り。

ここ、「藍の里」には、ほかにもたくさんの願いや想いが、そっと息づいています。

ふくのんやふくりんたちが暮らす、癒しと手しごと、学びの里へ──

よろしければ、ふらりとお立ち寄りくださいね。

藍の里ワークスはこちら